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野村英登の霊学研究日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2006-06-29第5回例会レジュメ

 『揚善半月刊・仙道月報全集』とセットで公刊された『中華仙学養生全書』に未公刊の資料として収録されている「最上乘天仙修煉法」を仮訳。

 陳攖寧の内丹思想を考える上で検討すべきテキストとして、

  1. 陳攖寧自身の論述(経典への注釈も含む)
  2. 書簡や雑誌でのQ&A
  3. 非公開の口訣のようなもの

が想定されるわけだが、基本的な思想は(1)にあらわれるとはいえ、しばしば表現が意図的に難しくしてあるため、(2)や(3)によってそれをときほぐせることが期待できる。うち(2)については分かりやすく説明されていることが期待できる一方で、対外的に行う説明故に肝心なことには触れないようにしている可能性がある。もし(3)を参照できればそうした恐れもないだろうから、かなり期待できる。

 以下に仮訳したものは陳攖寧から直接の弟子胡海牙に伝えられたメモで位置づけとしては口訣のようなものとなるため、主要な著作を検討する前に目を通しておくとよいだろうとの考えから最初に手をつけた次第である。

 ところが、考えがいささか安易であった。訳出後、念のためネットで検索したところ、http://www.wulinjj.com/Article_Show.asp?ArticleID=508 所載の文章によれば、同文は『武魂』2003年4期が初出である。つまり公刊済の資料であった。しかも同文のの口訣部分は王重陽の『五篇霊文注』の剽窃であり、ためにこれが本当に陳攖寧のものか疑問視し、胡海牙の創作であろうとしている。

 なるほど、剽窃かどうかは検討すべきであるが、こうした煉功に関する文章については、そもそも大体似通ってしまうことはさしておかしな話ではない。したがって剽窃であったとしても陳攖寧自身のものでないとも言えないだろう。とはいえ、やはり『揚善半月刊・仙道月報』などの一次資料に載っているものを第一とし、こうした「口伝」資料の信頼性には限界がある、として軽い参照にとどめておくべきかもしれない。考えてみれば、弟子によって与える口伝の内容が違うことだって十分あり得るわけで、特権的な地位を与えなければ(与えた方が楽だったんだがなあ)、書簡などと同レベルには扱えるだろうか。

 なお志賀さんに指摘されて『道教養生』を確認したところ、未収録だった。つまり中国道教協会としては、陳攖寧の文章として認定していない、ということになるかというとそうでもなくて、同書は1989年に出版され2000年再版されたたものだから、2003年に初めて公表されたものが収録されてないのは当然ともいえる。弟子筋の間で派閥闘争のようなものがあるんかもしれんし、このへんの事情をもう少し知りたいところだ。自分で調べるのが筋だろうけど、古典研究者としてはひとまず文献読解に立ち返ることにしておきたい。

最上乘天仙修煉法

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陳攖寧

(野村英登・訳)

 この修行法は真心を主体とし、真炁を作用とし、三寶を基礎とする。外三寶(耳・目・口)は漏らさず、内三寶(精・気・神)は合することで、天と人(外と内)が感応し、先天一炁が自然と身体内に引き入れられるのである。

 我々人間の肉体のあらゆる物資は、すべて後天の陰陽の気に属するもので、人間を超えて聖人の域に達することは不可能である。ただ先天純陽の炁は、霊妙の極み、杳冥恍惚ととして把握することが出来ない。外からやって来ると言うものの、実は内に孕むものである。先天の炁(元動力 )は後天の気(物質)の助けがなければ、どうやって呼び寄せることができるだろうか?また後天の気が先天の炁を得なければ、変化を起こすこともないだろう。これが無の中に有が生じ、有の中に無が含まれるということで、無が有によって妊娠して形をなし、有が無によって変化して霊妙になるということである。

 仙家のすぐれた効用は、先天の一炁を採取して金丹の母体とすることにあるのだが、基礎となる凡人の身体を変化させて聖なる身体をなすことは、道の理法は自然となるようになることを知るべきで、無理に作為して達しようとしてはならない。

第一段階

神不離氣、氣不離神。呼吸相含、中和在抱。

(意識は気を離れず、気は意識を離れないようにする。意識も気も呼吸とともにあって、中和して一つになる。)

不搬運、不可執著。委志清虛、寂而常照。

(気は運ばず、執着しない。心のままに澄みきらせ、静かに常に意識する。)

第二段階

神守坤宮、真炁自動。火入水中、水自化炁。

(意識を坤宮 に集中させると、真炁が自然と動き出す。火が水に入ると 、水が自然と気になるのだ。)

熱力蒸騰、周流不息。恍恍惚惚、似有形狀。

(気が熱エネルギーによって沸騰し、体内をかけめぐって止まらなくなる。そのうちに恍惚として、何かが形をなしてくる。)

此是藥物初生、不可遽采。倘或絲毫念起、真炁遂喪。

(これは金丹の材料が初めて生じたもので、これを採取してはならない。仮に少しでもそのつもりになると、真炁は失われてしまう。)

第三段階

神守乾宮、真炁自聚。

(意識を乾宮 に集中させると、真炁が自然と集まってくる。)

始則凝神于坤爐、鍛煉陰精、化為陽炁上升。次則凝神于乾鼎、陽炁漸積漸厚、晶瑩晃耀、上下通明。

(最初に意識を坤爐 に集中させると、陰精が練り上げられて、陽炁に変化して上昇する。次に意識を乾鼎 に集中させると、陽炁がだんだんと蓄積されて、光り輝きはじめ、全身を照らしつくす。)

此時内真外應、先天一炁從虛無中自然而來。

(この時、内部の変化に外部が呼応して、先天一炁が虚無の中から自然とやって来る。)

非關存想、不賴作為。

(しかしこれを存思して、作為的になしてはならない。)

當先天炁來之候、泥丸生風、丹田火熾、周身關竅齊開、骨節松散、酥軟如綿、渾融如醉。

(先天一炁が現れるときは、泥丸が風を生じ、下丹田の火が煌めき、全身の穴が一斉に開き、骨や関節が粉々に散って、絹のようなチーズ状のものになり、酔ったかのように身体がどろんと溶ける。)

第四段階

一神權分二用、上守玄關、下投牡府。

(意識の働きを二つに振り分け、一つは玄關 に、一つは牡府 にそれぞれ集中させる。)

杳杳冥冥之中、紅光閃爍、由腦部降落下丹田、白己身內真炁、立刻起而翕引、波翻潮涌、霞蔚雲蒸、甘露瓊漿、滴滴入腹。

(ぼんやりとうすぐらい中に、赤い光がひらめき、頭部から丹田に向かって、自身の内にある真炁が、すぐに引き寄せられ、波打つように湧きだし、雲や霞が立ちこめるがごとく充満し、甘露玉漿が一滴一滴と腹に溜まっていく。)

即此便是金液還丹。須要身如磐石、心若冰壺、方免走失。

(これこそが金液還丹である。身体を盤石のごとく、心を氷の壺のごとくすれば、甘露が失われずにすむ。)

第五段階

神守黃庭、仙胎自結。

(意識を黄庭に集中させると、仙胎が自然とつくられる。)

朝朝暮暮、行住坐臥、不離這個。

(毎日朝から晩まで、行住坐臥、そこを離れない。)

十月胎圓、玄珠成象、三年火足、陰魄全銷。

(十ヶ月たつと母胎がまんまるになり、玄珠が形をなし、三年間十分に火をまわすと、陰魄がすべて陽魂に変化する。)

身外有身、顯則神彰于氣。形中無質、隱則氣斂于神。

(身体の外に身体ができ、姿を現すときは神が気を発する。形はあっても中身がなく、姿を隠すときは気が神に収められる。)

九載功完、形神俱妙。百千萬劫、道體長存。

(九年で修行は完成し、肉体も精神も霊妙なものとなる。幾千萬劫が過ぎても、道と一つとなった身体は永遠に存在し続ける。)


 この文章は五百四十宇に過ぎないが、全ての丹法をその内に包括している。もちろん南派・北派・東派・西派・陳希夷派・張三豐派はどれもこの範囲を越えるものではない。ただその他の下流の技、旁門小術や江湖邪教などなどは、この修行法と符合するところなどない。私が前人の記した丹経を見たところ、比喩を多用し、異名だらけで、読者の頭を混乱させる。しかも章立てがきちんとしておらず、修行過程が乱れていて、それに頼って実行することができなくなっていた。かつて『道蔵』五千四百八十卷に、蔵外の雜書・道書数千卷、合計でほぼ一万卷の書物を読んだのだが、どれもこのように直接はっきりと、簡単明瞭に書かれたものはなかった。

この口訣はかつて師より授けられたのだが、紙に記したのは、今日が初めてのことだ。道を同じくする朋輩よ、宿世の縁あって、これに出会えたことを軽視しないでいただきたい。いつまでも大切に守り、決してみだりに他人に教えたりすることのないように。


一九五五年乙未立秋

慈海医室にて陳攖寧より胡海牙に記す。


(海牙按ずるに、確かに師の言葉通り、この一篇は修仙の全ての口訣であり、篇中において東、西、南、北、三豐、希夷諸派の心法で内包されてないものはない。しかし、普通の人は言われていることを理解できないだろうが、東西諸派の真義に通暁し得た者ならば、その奥義を窺い知ることができる。恩師が我にこの篇を伝えてからすでに半世紀近くが過ぎたこともあり、この度公開して、同じ道を学ぶ人々に供するものである。)

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